クイーン

映画「クイーン」を観てきた。ヘレン・ミレンエリザベス女王を演じてアカデミー主演女優賞を獲ったアレです。
ダイアナが亡くなってからの一週間は、ちょうどトニー・ブレアが改革派の首相として人々の期待を背負って当選した後の一週間と重なる。この間の女王の葛藤と、自らの立場で彼女を支えたブレア新首相との交流を描いた映画。
たぶん既にいろいろなところで言われていることだろうが、存命中、どころか、女王も首相もまだ当人がやっている時期にこういう映画を作って公開できてしまう英国*1ってすごい。同様に皇室をもつ日本でこれができるだろうか・・・。
というのはさておき、この映画にはユーモアと気品、皮肉と威厳が備わっていて、本当にいかにも英国。この作風は英国でしかあり得ない感じがする。監督のスティーヴン・フリアーズは、強面の社会派でなく英国的気品と諧謔性をもつ作品を撮れる貴重な監督の一人ということなのかもしれない*2。地元では彼の前作「ヘンダーソン夫人の贈り物」もちょうど今公開されているので、できればこれも観に行くつもり。


しかし、全体的な作風としては上記のようなこともありつつも、この映画はヘレン・ミレンに尽きる。
私は、イギリス王室が本当はどういうところか知らないし、女王がどんな人かも知らない。また、ヘレン・ミレン自身は外見が女王に特に似ているわけでもないと思う。けれども彼女の演技を観ていると、そこに表現されているものが本物の女王のそれであるように思えたのだ。
「ラスト・キング・オブ・スコットランド*3フォレスト・ウィテカーを観たときにも思ったことだが、よく知られた実在の人物を演じる以上、観ている人に嘘くさく見えたらおしまいなのだから、ある程度本物に似せる努力も必要だろう。しかし重要なのは、ものまねをすることではなくて、演じるキャラクターの人間性をいかに表現し、その人物が存在するということに説得性をもたせられるかということなのだと思う。この点においては、フィクションであろうとノンフィクションであろうと変わりはない。
この作品でのヘレン・ミレンを観ると、その演技そのものと、表現される人間性の両方に深く感動する。その、演じる人を観る幸せを感じられる映画だ。


ただ、ブレアなどは中途半端に似ていて、似ていなさが逆に気になってしまったけれど。
物語の中ではブレア首相と女王の二人が特にクローズアップされているので、二人の周囲の人々の描かれ方が少々かきわりくさいのは仕方ないのだろうか。この映画が公開されて一番割を食ってるのはブレア夫人だろうな。エディンバラ公の描かれ方も相当なものだが、ああいう人たちはこんなものきっと意に介さないだろうから。


映画の終盤で、女王がブレアに「(批判や攻撃は)突然襲いかかってくる」というようなことを言うシーンがある。今のブレアなら、そのことを痛感しているのではないだろうか。イラク派兵で失敗して批判され支持率を落とし、今や労働党自体の支持率もあやうい状況なのだから。映画の中ではあくまでもずっと優位でアドバイスをする側であり続けたブレア首相だが、そんな時の流れと運命を考えつつ観るとまたおもしろい。

*1:こういうときは、なぜか「イギリス」と書くよりも「英国」の方がぴったりくる気がするので、以下「英国」で。

*2:彼は今年のカンヌの審査委員長だそうで、クイーンといい、今年は彼の当たり年なんですかね。

*3:ここには書かなかったけど、観たんです。