ホテル・ルワンダ

映画「ホテル・ルワンダ」を観てきた。
ルワンダでのフツ族によるツチ族の大虐殺を描いた映画だ。
もし世の中に「社会的正義感に基づいて観るべき映画」というのがあるとすれば、これはそのうちの一本だと思う。
別に、この一本を観て偽善的に、「戦争反対」だとか、何で同じ土地に住む人たちの間で殺し合わなきゃいけないの、などと言いたいわけじゃない。そういう情緒的反応ももちろんあるだろうし、その意味でこれは本当によくできた映画だと思う。
だけど、我々外の世界に住む観客がこの映画によって一番につきつけられているのは、無関心が悲劇を拡大させるという事実であり、それは今なお世界の各地、例えばイラクイスラエルで起きていることにいかに目を向けているか、そういうことに繋がっているのだ。(そうとでも考えなかったら、ホテルの支配人ポールの絶望を我々はどう受けとめられよう)
この映画を観ながら、私はふと昨年のドキュメンタリー映画祭で観た「イラク−ヤシの影で」を観たときのことを思い出していた。あのときも、フィルムに映し出される現実に涙が止まらなくなりながらも、その重みを受けとめて、これは一度は観るべき映画だ、と思ったのだった。もちろん、観て一時的に義憤を奮い立たせたところで何が変わるわけでもない。けれど、そうやって観た映像や得た知識というのは、それについて何かを考える糸口になるし、世界を見るための窓口の一つとなるはず。
もちろん、「ホテル・ルワンダ」は事実に基づいているとはいえ、ドキュメンタリーではなく劇映画だ。だけどこの映画には、観る者にそういうことを考えさせるだけの力強さがある。
監督のテリー・ジョージIRA絡みの冤罪事件を描いた「父の祈りを」の脚本家なんだな。あれも社会的事件を扱った必見の映画だけれど、今作では監督としてもその上手さを見せている。ここに描かれる恐怖の演出は、下手な恐怖映画よりよっぽど怖い。しかも、ハリウッド映画にありがちな唐突でわざとらしい娯楽的演出が無いし。変な表現だけれど、映画ファンにとっては、「安心して観られる」戦争映画なのだ。
役者陣の演技も皆素晴らしい。今更だが、昨年のアカデミーの主演男優賞はドン・チードルにやるべきだったと思うね。ジェイミー・フォックスだっていい役者だしいい演技をしていたとは思うが、あれは物まねだし、作品の質からいってもこちらの方が断然上だ。といっても、有名人の映画化に弱いのがアカデミー賞の傾向だから仕方ないのだろうが。
この映画は、長らく日本での配給が決まらなくて、このままビデオスルーかと思われていた作品だ。題材のマイナーさと暗さ、そのわりに契約料が高いということで配給会社が二の足を踏んだらしい。結局、映画ファンの署名活動が実って無事配給とあいなったわけだが、本当に、これが映画館で公開されてよかった。近年まれにみるレベルの「観る価値のある大作映画」なのだから。これがビデオスルーだったら・・・なんて考えるだに恐ろしい。