春夏秋冬そして春

Spring, Summer, Fall, Winter ...and

春夏秋冬そして春」を観てきた。
子供の修行僧が、青年になり恋をして寺を出、大人の男になって寺に一時戻ってきてまた去り、壮年になって再び戻ってきて住職となる、という一人の男の人生の過程を、春夏秋冬という季節の移り変わりと照らし合わせて綴った叙情的な作品。寺は山の谷間の湖の中にポツンと浮かんでいて、霧が立ちこめると辺りはたちまち幻想的な雰囲気になる。この映画は風景がとても美しい。
といっても、静かなように見えて、描写はかなり過剰。正直、ラスト近くまで、物語に入っていけなくて少々とまどいを感じる部分の方が多かった。いろいろ詰め込みすぎにも思えたし。
だけど四季が巡って再び春になり、老い始めた主人公の元に昔の自分と同じように小僧となった子供がいる、という描写になったとき、それまでの疑念が消えてこの映画の描いてきたものが理屈を越えてストンと胸に落ちるような気がした。ああ、巡っているんだな、と。
もしかしたらあの達観したような和尚さんもこういう業を背負って生きてきたのかもしれない。そして今度は彼が、この子供を同じように見守っていくことになるんだろう、と感じたら、なんだか安らぎを感じたのだった。
この映画はキム・ギドクの今までの作品とは違っていて意外だと言われているらしい。私は「悪い男」しか観ていないので他の作品のことはわからないけれど、これでもかというほどの過剰な描写(そのベクトルは違うけれど)の後に不思議と安らぎを感じさせる、という点では、この二作品は似ていると思う。


それと初めは、どの季節でも寺にやってくる外の人たちの服装が現代のものなのはおかしいだろうと思ったのだが、あれはあの寺では外の世界とは関係なく月日が巡り世界が廻っている、ということを表しているようにも思えてきた。湖に浮かぶ寺、回転する寺というのは、外の世界からは浮いた位置にあるというイメージにぴったり合っている。寺に行くときに必ずくぐる湖の門は、その世界への入り口なのかもしれない。
まあ、いろいろ疑問に思うところはあって、それらすべてを合理的に説明することはできないけれど、そういう世界なのだと思うことで納得は出来る気がするのだ。