白塔 (中国/2003/スー・チン、ミー・ナー)

ろう者の恋愛を見つめた映画。
と書くと、なんだか地味な印象をもたれるかもしれないが、これがなかなかどうして! とってもおもしろくてアクティブ(?)な映画なのだった。
主人公となるろう者景明は離婚歴が2回ある男性。仲人らが再婚話をもちこんでくるが、実は彼には同じくろう者で好きな女性の王瑞がいる。けど、彼女には既に台湾人の婚約者がいて・・・。という、なかなかおもしろそうなシチュエーションで話が進行していく。
しかも、彼女の方も景明のことを悪く思ってはいなさそうなんだな。婚約者の台湾人のことも、最初は「気が合う」なんて言っていながら、次第に、実は教育のない彼のことをつまらなく思っていることが明らかになってくるし。結婚に乗り気なのは、台湾に行けるということで喜んでいる彼女の母親の方。
だから、仲良くじゃれあっている二人を見ていると、景明に、今だ!そのまま結婚を申し込んじゃえ! と言いたくなってくる。しかし、彼は全くもって優柔不断で、しかも二度結婚に失敗しているためになかなか踏ん切りがつけられない。もう、見ている方はやきもきやきもき。(笑)
ちなみに王瑞の方は、彼のことを最初から最後まで「ただの友達」と言っていた。(笑)
結局、彼の優柔不断のせいでその後もいろいろな出来事があるんだが、見ていて思うのは、当たり前のことだけど、ろう者にも健常者と同じ普通の生活があるんだよなということ。
それに、ろう者の映画というととても静かな映像を思い浮かべるが、実際に手話が飛び交う様は非常にアクティブ。この映画を観ている間、会話が声で交わされないこと(実際には健常者が普通に話すシーンもあるし景明はろう者だけど話せるので、声による会話はそれなりにあるのだが)が全く気にならなかった。もちろん、声であろうと手話であろうと、言語が中国語では字幕を読むしかないからということもあるのだけど。
また、この映画には中国独自の事情も絡んでくる。
現在中国はひどい就職難で、健常者でさえ職を見つけるのは難しいのに、ろう者ではほとんど無理と言われているそうだ。この映画でも、結婚の話の中で必ず出てくるのが、結婚して行った先で「職があるのかどうか」ということ。
ろう者だから他の人以上に自立が必要とされるからなのか、中国というお国柄(共産圏だし)によるものなのかはわからないが、この映画を観る限りでは、女性でも「専業主婦」という選択肢はあまりないように見える。だから、就職先がない=結婚もだめ ということになるらしいのだ。
そのことが、映画でものちのちキーポイントとなってくるのだが。(^^;