憶え書き (中国/2005/チョン・ジエン)

母親と共に母の故郷へ墓参りに行った監督が、思い出の場所を巡りながら子供の頃の話をとぎれなく話す母の姿を丹念に映していく。
貧しくてもみ殻まで食べて飢えをしのいだこと*1、幼い紅衛兵だった文革時代の思い出、遊び場の話、文字の読めない家族のために普通より早く学校に入ったこと、等々。
これ、監督自身にとっての母親の物語としてももちろんだけど、一中国人の記憶としても形にして残しておくべき大切なものなんじゃないだろうか。
彼女は、貧乏な頃のつらい思い出や文革時代の怖い思い出も、楽しかった話も、何事もなかったかのように笑顔で話し、そんな時期を過ごしていながら今では息子を大学まで行かせている。すごいなあ。このフィルムに映る彼女の姿を見ていると、人間って強いなとつくづく思う。
本当に、母親の姿と思い出話を延々と撮っている、ただそれだけの映画なんだが、私はなんだかこの映画が好きだ。それは、のどかな農村の風景と彼女の笑顔が観る者を柔和な気持ちにさせるからでもあるし、カメラを通して監督と母親のいい親子関係が透けて見えるからでもある。
映画の終盤、夕陽を眺めて歩きながら、母親が「今まで話してこなかった秘密を全部話したわ。今度はあなたが秘密を話す番よ」と笑いながら言うシーンがとっても好きだ。素敵な親子だよ。監督がそれで秘密を話したのかどうかは、映ってないのでわからないけれど。

*1:この話題のときの親子の会話を聞いて、今の急速に成長し続けている中国の学生(しかも一人っ子政策で甘やかされてる)よりは、むしろ子供時代にバブル後を経験してきた日本の学生の方がまだ地に足がついていてものを知ってるんじゃないかと思った。だってこの監督(1982年生まれ)、もみ殻を知らないんだよ。ちょっとしたカルチャー・ショック。