ベルリン・フィルと子供たち

ベルリン・フィルと子供たち」を観てきた。
ベルリン・フィルが演奏する「春の祭典」に合わせて、年齢も人種も異なる様々な子供たち260人がダンスをするという試みを、子供たちの練習開始から追ったドイツのドキュメンタリー。
芸術を描いた映画ではあるが、それ以上に優れた教育の映画だった。
特に中心的に描かれたのは、難民などの多い中学校の子供たちだ。練習を開始した頃は、みな自信なさげで、体を動かすのも苦手。練習中にもすぐ友達と目を合わせたり笑ったりする子供たちに、振付の先生は、そうするのは一人になるのが怖いからだと言い、それぞれが個を確立して自主的に動くことをダンスを通して教えていた。
それはただ統率して動きが合っていればいいという教育とは似て否なるもので、見ていて目から鱗が落ちる思いがした。日本でも今、じっとしていられない子供たちのことがよく問題となっているけど、こんな教育ができているだろうか。
最初はやる気なさげだった子供たちが、本番が近くなると自分たちで話し合って問題を解決し、自信溢れる顔つきと動きになっていたのは感動的。
作品では特に数人の子供(とダンススタジオに所属して参加した男子学生)をクローズアップして捉えていたが、彼らを見ていても、彼らの中で何かが変化しているのが伝わってくる。始まった頃は否定的なことばかり言っていた彼らが、終わった後、肯定的に物事を見つめるようになっていたのが印象的だった。彼らにとって、これはかけがえのない経験となるのだろう。
本番の映像はほんの少ししか流れなかったが、それでも、終了した後の観客の割れんばかりの拍手と熱狂と、ステージが終わった後の子供たちの笑顔に涙が出そうになった。ドキュメンタリーでこんなに感動したのは久しぶりかもしれない。
山形ドキュメンタリー映画祭なら、ここで観客が大きな拍手を送るところなんだろうけど、誰もそうしなかったのがちょっと寂しかったな。一人で、誰にも聞こえないような音でちょっとだけ手をパチパチさせていた、気の弱い自分。