父、帰る

VOZVRASHCHENIE

父、帰る」を観てきた。ロシア映画
2人兄弟、母、祖母の家庭に12年ぶりに突然父親が帰ってきた。次の日から父に連れられて3人で旅行に出かけるが、いきなり父性爆発の父親にとまどう兄弟。兄の方はそれでも父に懐こうとするが、弟の方は父の強権的なところも兄の態度も気にくわなくて何かと反発する・・・という話。
父親の事情(何故家を空けていたか、何故帰ってきたのか、旅行の目的はなんなのか)などは一切明かされない(ちょっとやばい秘密があるらしい描写はあるけど)。映画は完全に兄弟と父親の三人の関係の話になっている。
しかしながら、こういう話でこういう設定の時に皆が期待するような展開には全くならないんだな。父親はきっと子供たちを愛していたし、子供たちもなんとか親を愛したかったのだろう。けれど、結局その双方の気持ちが完全には交わることなく映画は終わってしまう。「事件」が起こった後の兄弟の対応も、ずっと一緒に暮らしてこなかった父親との距離感を考えたら、冷たいかもしれないけどたぶんこんなものなんだろう。一瞬悲しみ動揺しつつも、日常に戻っていこうとする、そのリアルな冷静さが切なかった。
子供のいじけ方や兄弟の微妙な力関係がとてもリアルで、観ながら思わず自分と親や兄妹とのことを考えてしまった。兄貴面しつつも何かと弟の言うことを聞いてしまっていた兄が、事件の後、弟より一段大人らしい姿を見せているところが好きだ。


と、これを書いてから映画のチラシを見て初めて、兄役のウラジーミル・ガーリンがロケ地の湖で事故で亡くなっていたことを知った。ああ、なんというか。「ベアーズ・キス」の公開時にすでに事故で亡くなっていたセルゲイ・ボドロフJr.のことを思い浮かべてしまった。彼もまた、ロシア人で、将来有望な若い俳優だったけれど。
ご冥福をお祈りします。