華氏911

華氏911」を観てきた。
観る前からいろいろとうがった見方をしていたのだが、思っていたよりはずっと内容があったし楽しめた。楽しめた、という表現はあたらないかもしれないが、興味深く観ることができた。
全体を通して「サルでもわかる なぜブッシュはダメなのか講座」といった感じ。前半ではブッシュの無策ぶりとブッシュの周囲とサウジアラビアオイルマネーとの結びつき、後半ではイラク戦争の悲惨さと戦争の正当性の無さを強調している。これだけやれば政治に興味のない層やあまり高い教育を受けていない低所得層でも、ブッシュではまずいと思うだろう。うまくできている。
特に前半だが、間断無くかかる音楽や考える隙を与えないようなナレーションで考えを一方方向に向けさせようとするし、もちろん示される材料はブッシュに不利なものばかり。情報の選択の仕方も編集の仕方もかなり恣意的だ。その点は「ボーリング・フォー・コロンバイン」と変わらない。けど、それでもドキュメンタリーとして惹きつけられたのは、結局のところムーア監督のあざとさよりブッシュを取り巻く現実の酷さの方が勝っていたということなんだろう。
前半のブッシュとオイルマネーについてのレポートは、ムーア監督でなくてもいずれ誰かが作ったように思える、わりと普遍的な内容だ(もちろんあの恣意的な編集がなければだが)。後半のイラク戦争については当事者達の思いが胸に迫ってくるという点ではよくつくられている。「ボーリング〜」より若干抑え目だが、この監督ならではの体当たりの企画もある。市内を車で回りながら愛国者法の条文をスピーカーで流すパフォーマンスには笑った。ムーアらしさを残しつつ、ムーアにしてはよくやったんじゃないの、というのが正直な感想。
(おじの家を爆破されたイラク人女性の姿に泣いてしまったのは内緒だ)
それにしても、これだけの内容が公開されてもアメリカにはブッシュを支持する人たちが大勢いるということが不思議。共和党支持にしても、彼以外を、ということにならなかったんだろうか。
これ、向こうの映画館での上映時は異様な雰囲気だっただろうなあ。完全にアメリカ国内向けの特殊なプロパガンダ映画なんだから。それを日本人が日本で観て正義心をかきたてられるというのも奇妙な状態であるなあ、と、上映室にいる観客達を眺めつつ思った。映画全体が「ブッシュに入れるな!」という強いメッセージを発しているので、自分たちが観るとその念の強さみたいなものを持て余してしまうんだよな。