アドルフの画集

MAX

アドルフの画集」を見てきた。
復員兵で画家を志す青年だったアドルフ・ヒトラーが、芸術と政治の間で揺れながら次第に政治の方へと振れていく様を描いている。原題の「MAX」は、この映画の主人公の、ヒトラーを支援したユダヤ人画商の名前*1。これだけ見てもどういう映画なのかイメージできないインパクトの弱いタイトルだと思うんだが、欧米ではやはり今でもアドルフ・ヒトラーの名前が全面に出ることに拒絶感があるということだろうか。*2
ここに描かれるヒトラーは、人の言葉に感化されやすく他人の評価を気にする小心者だ。その一方で激昂しやすく、ある種の自信にも溢れている。また、マックスの言動に激しい拒否感を感じたり反ユダヤ主義を唱えながらも、一方では創作面で精神的にマックスに頼っている。しかもそれが政治と芸術の単純な二面性とはなっていない。そんな不安定で複雑な性格をノア・テイラーがうまく演じている。
クライマックスのヒトラーが大演説を打つシーンでは、彼がついに何かに開眼してしまったこと、彼の中に狂気にも似た確信が潜んでいることが伝わってきて、その後のことまで考えると背筋が寒くなる思いがした。このシーンを説得力をもって描いた演出と、演技力は素晴らしい。
この映画では、最初はヒトラーもはっきりとした反ユダヤ主義ではない。後に彼が純血主義を唱えるようになってからも、巷ではまだそういった論調を軽く受け流す空気があった。しかしラストからは確実に反ユダヤ主義が広まっているのがうかがえる。不安や不満が人々をそういう方向に向かわせている、その時勢にヒトラーがうまくはまったということなのだろう。
歴史に「もしも」はないけれど、彼にも別の可能性があった(しかしそうはならなかったのだ)と思わせるところがこの映画の怖さだと思う。
マックス役のジョン・キューザックも素晴らしい演技をしている。リーリー・ソビエスキーはしばらく見ない間に育っちゃったなぁ。(笑) 大人の女然としていて驚いた*3が、やはり美人。確かポーランド系だっけ(ポーランド王族の家系だというのをどっかで見たことがある)。今後この手の映画で東欧顔の美人として使われることも多くなりそう。
ちなみにパンフは、スケッチを持ち歩くときのケース(名前知らない)を模した厚紙製でひもつきのケースつき(中に一枚一枚に分かれたパンフが入っている)で600円。凝ってるわりには安い。ただし中身はあまりたいしたことなかったが。(内容自体もそうだが、宣伝会社はもう少しきれいな文章になるようにちゃんと推敲して欲しい。たまにチラシでも日本語のこなれてないものがあるけど)

*1:実際にいた様々な人物を複合した架空の人物らしい

*2:そう考えると手塚治虫の「アドルフに告ぐ」というタイトルはすごいよなあ

*3:しかもこれは2002年の映画だから今はもっと大人っぽくなってるんだろう