ダーウィン以来―進化論への招待 (ハヤカワ文庫NF)

ダーウィン以来―進化論への招待 (ハヤカワ文庫NF)

ティーブン・ジェイ・グールドの「ダーウィン以来」読了。
先日読んだ「ファストフードが世界を食いつくす」がおもしろかったので、何かまた手頃でいい本(できればノンフィクションかサイエンス系で)ないかなと本屋で見ていて、「これ読んだことないし久しぶりにグールドでも読んでみるか」とたまたま手に取った本がこれだった。そしたら、これは彼の最初のエッセイ本なのだった。
訳がこなれていなくて慣れるまで違和感がつきまとうこと、原著の出版は1977年(エッセイ初出は1973年)とかなり昔なので、その当時の「最新」知識・研究に基づいて書かれているから、それをある程度念頭におきながら読まなければならないこと(この本を読むという体験を通してでも、科学的に「正しい」と考えられている学説がいかに変遷しうるものかを実感する。自分が子供の頃学校で教わったプレートテクトニクスによる大陸移動説が、この本の執筆時点ではまだ定着して10年と経たない新しい理論なのだ。)などという留意点はあるけれど、読み進むうちに訳も知識の古さもそれほど気にならなくなる。とにかく非常におもしろかった。
グールドというと、一般的な事柄から始めて徐々に深い部分に・・・というような話の進め方がわりと多い印象だったのだが、この時点ではまだ30代半ばという若さのためか、語り口がとてもストレート。余計な話より言いたいこと一直線という感じで、その分彼の熱意がまっすぐに伝わってくる。その科学と人間と社会を語る語り口の鮮やかさ、立場と論理の一貫性、そして情熱に、読むうちに感動を禁じ得なかった。
もしかしたらこれが彼の(一作目にして)ベストかも。といっても、彼の全作品を読んだことがあるわけではないけど。
文庫本あとがきで渡辺政隆*1がグールドとの思い出を語っているのだが、それはたぶん文庫本の初版が出た1995年辺りに書かれたもので、「『事情が許す限り』連載は2001年1月まで続けるつもりだとか」なんて書かれている。その無邪気な内容を読んだらちょっと涙が出てしまった。結局彼は最後まで連載を続け、内容をまとめ上げたところで亡くなったんだよね。つくづく、惜しい人を亡くしたものだと思う。彼の訃報を聞いたときも悲しかったけど、改めてそう感じた。
学者としては結構微妙だったらしいが、それでも貴重な知の人だった。

*1:(この本は違うが)グールドのエッセイの多くを翻訳しているサイエンス・ライター。この人による科学本の書評もよく見かける。