パプリカ

今敏の新作、「パプリカ」を観てきた。
サイコセラピーの研究所から、開発中の、他人の夢を共有することで精神治療をおこなえるマシンが盗まれて悪用されるという事件が発生した。研究所の研究員らは犯人を探すため動く・・・という話。
現実と妄想が入り乱れるという意味ではいつもの今敏節だが、夢が主題とあって、いつも以上に「なんでもあり」の状態になっている。ただ、つくりは「妄想代理人」の延長線上にあるものだろう。キャラクターの造形や、わけのわからない雰囲気とある種のばかばかしさ、文語調の台詞の挿入、それにラストの晴れ晴れとした感じなどからそう感じた。だから、そういう意味でちょっと新味が足りない感じはする。
それと最後、現実に夢が浸食してくることで本当になんでもありになってしまい、ちょっと怪獣映画的ばかばかしさというか表現の飽和状態に陥ってしまったのが残念ではあった。それまで、これは現実なのか夢なのかということを観る人に考えさせながら見せてきたのに、なんでもありになることで、それまで築いていた構造がなし崩しにされる感じがしたから。この辺は筒井康隆の原作があるから仕方ないのかも知れないが。でも今敏もわりとこういう「なんでもあり」な表現が好きな人だよな*1
と、悪い点を書いてみたが、それでも私はわりとこの映画が好きだし*2、見終えた後の晴れ晴れとした感じも好きだし、平沢進の音楽にもワクワクするし、これを観るのはおもしろい体験だと思う。この、現実か夢かを疑いながら観る、自分の足下が定まらない感じは、「メメント」を観たときの感覚に似ている*3。夢と現実というテーマは今敏の作風にぴったり合っていて、ホント、うまい映画化の話があったものだ。筒井本人からのオファーらしいが。
だからたぶん、特に今敏を初めて見る人にとってはすごい映像体験になるのではないだろうか。が、初めての人にとっては刺激が強すぎるかもという危惧も同時にあるのだ。「千年女優」ですらわけわからないという人がいたわけで、それがこれとなると・・・人によっては、「なにこれ、気持ち悪い」で終わらされそうな気がしなくもない。アニメーションに対するある程度の許容力が必要とされる作品であり作家だと思う。


だから、(普段アニメを観ない)人に勧めていいかどうか迷うんだよねえ・・・。やはり最初は無難に「東京ゴッドファーザーズ」だろうか。自分の好みで言えば「千年女優」も捨てがたいけれど。でも、劇場で観られるときに体験して欲しいという思いもあるんだよなあ。うーむ。

*1:しかもたぶん、ストーリーより「どう見せるか」という表現自体の方に興味のある人だと思う

*2:もともと今敏の作品大好きだから

*3:他にもあるだろうが、今これが思い浮かんだので