フラガール

映画館のプレミアム会員の更新期限が明日に迫っていたので、今日更新してきた。プレミアム会員というのは、入会(もしくは更新)時に10000円払うと、この映画館会社の鑑賞券10枚綴り(一年間有効)と、チケットを買うときに見せると常に1000円で見られるプレミアム会員券がもらえるというもの。つまり、10回分前払いすれば一年中映画が1000円で見られるのだ。これがなかったら、私はそんなに映画を見てないだろう(今年は見た本数が極端に少ないが、それでも充分もとはとっている)。


ついでに、ちょうど上映時間だった「フラガール」を観てきた。
石炭産業が斜陽になった福島の田舎町で、鉱山から出る温泉を利用したハワイアンセンターを建設することになる。そこで施設の目玉とするため、炭坑の娘を集めてフラダンスを教えようとするのだが・・・という、常磐ハワイアンセンター(現在はスパリゾートハワイアンズ)黎明期を描いた話。
うまい映画だ。泣けて笑えて。なるほど、評判がいいのもわかる。東京に帰ろうとする先生を止めようとして駅に来た生徒達が、列車の中にいる先生にフラでメッセージを伝えるところなんて、この映画の主題でなければありえないシーンだ。全体的な話の運びも自然。
ただ、あえてケチをつけるとすれば、ちょっとうますぎるんだよな。脚本のお手本を読んでいるような気分になる。悪くはないんだが、定石からはずれるところがあまりないというか。そのせいで、ああ次はこうなるかなあ次はこうかなあと、見ながら予想ばかりしてしまって、我ながら嫌になってしまった。サプライズというか、何か、これ!というようなキラメキがもう少しあってもいいと思う。
サプライズと自己主張の強い演出ばかりの今時の新人に比べたら、見ていて疲れない手練れた「日本映画」の雰囲気をメジャー一作目の監督がつくっているのはすごいとは思うけれど。でも、新人ならもう少し冒険してもバチは当たらないんじゃないかなあ。


ところで、この映画はいわゆる「炭坑もの」の一つである。
イギリスの「ブラス!」や「フル・モンティ*1や「リトル・ダンサー」、アメリカの「遠い空の向こうに」などと同じ、消え行く産業の町を舞台にした話。炭坑ものが映画になりやすいのは、エネルギー源の転換というあらがえない歴史的波によって町の未来がシャットダウンされてしまうというどうしようもなさと悲劇性があり、そこから抜け出して未来や希望を求めようとする行為がドラマになるからだろう。石炭産業に従事せざるを得ない大人と抜けだそうとする若者という対比軸がつくりやすく、残る者と行く者という対比によって動的な要素ももちこめる。
先週末に地元の民放で深夜にちょうど「ブラス!」を放送していて、後半だけだけど観たので(もちろん全部観たことはあります)、今回の映画はそれも思い出しながら観た。「ブラス!」の場合はラストの後に明るい未来は提示されていない。だからこそ、ロイヤル・アルバートホールの受賞シーンでのピート・ポスルスウェイトのスピーチが胸に迫ってくるのだ。過去、政治が切り捨ててきた存在があって今があるのだと*2
今、炭坑でホットな(いや、寒い?)町といえば夕張だろう。新聞の社説でも、夕張のことについて書くときにフラガールに触れているものを読んだ。映画の中にも、主人公の親友が、炭坑を解雇された父親の再就職先である夕張に引っ越すシーンがある。もちろんそこも炭坑である以上、早晩同じ運命をたどることはわかっている。映画はそうした哀しさも漂わせているのだが、現実の変化によって、それ以上の悲劇性が加味されてしまった。制作者たちは、映画の公開中に夕張がこんなことになろうとは思いもしなかっただろうけれど。
映画を観ながら、ニュース番組で見た、これからどうすればいいのかと訴える住民たち、特に、少ない年金にかかる負担の大きさを嘆くお年寄りの姿が脳裏に浮かんだ。引っ越した女の子も、もしあのまま夕張に留まっているとしたら今ごろ大変なのではないかなどと考えてしまう。もちろん、夕張の現状は炭坑そのものよりはその後の施策に大きな問題があるのだが、それにしても、現在見られる炭坑閉山後のリアルな姿があれである。
炭坑ものは、その性格上、大体が「終わった」過去の話だ。エネルギー政策転換期の話を、石油に首まで浸かった時代の人間が見ているという構図。だから、映画は多少のノスタルジーも含めて見られているように思える。ああ昔はこうだったなと。つまり観客はそうやって過去をエンターテインメントとして消費しているのだ。*3しかし、多くの炭坑はその後に悲惨な運命が待っており、現在の夕張がある。そう考えると、「炭坑もの」とは因果なジャンルであるなと思わずにいられない。

*1:挙げた映画の中ではこれだけ観たことがないけど

*2:ただ、イギリスは炭坑閉山の決定がかなり遅かったのか、これはサッチャー政権の話。「フラガール」や「遠い空の向こうに」と比べたら30年ちかく後の、現在に近い話である

*3:もちろん、それが悪いと言っているわけでは全然ないです