父と暮らせば

「父と暮らせば」を観てきた。
これって首都圏では夏〜秋頃の公開だったよね? まさかこんなに公開が遅くなるとは思わなかった。公開しただけよかったけど。
井上ひさしの戯曲を映画化したもので、舞台は原爆から3年後の広島。一人暮らしをする娘と、原爆で死んだが彼女の恋を応援するために現れた父親の幽霊の物語。
もとが戯曲だけに、ほとんどのシーンが二人の会話劇。舞台装置も、劇中でスポットライトまで用いたりして、多分に舞台を意識したつくりになっている。私は舞台を観たことはないが、元の舞台ではたぶん、たった二人の会話の中から戦争の悲惨さ、哀しさが立ち上がってきて、観客に実際には見えない情景をイメージさせるような作品になっているのだろう。
しかしこの映画では、その会話劇の中で語られる原爆や戦後の風景を、具体的な映像やイメージで見せてしまっている。しかもわざときつい演出で。これではくどいし野暮だ。
また、演出のトーンが終始暗いためにユーモアのある台詞まで暗く聞こえてしまって、物語がもつ味を殺しているように思えた。
私はどうも、この映画に啓蒙的な視点を感じてしまう。おまえらは知らないだろうけどこんなに悲惨だったんだぞ、直視しろよ、という。NHKスペシャル的な呪縛から抜け出せていない教育映画。悪く言えばそんな感じ。それで戯曲としての味を殺しつつ映画的な斬新な演出もなしでは、映画にする意味があったのだろうか。
話はいい。宮沢りえ原田芳雄の演技も素晴らしい。特に、宮沢りえは古風な演技がはまるなあ。可憐でかわいらしくて、とてもよかった。