グッバイ、レーニン!

グッバイ、レーニン!」を観てきた。
予告編からは、資本主義からみた社会主義の価値観や物の違いを揶揄してコミカルに描いたドタバタ・コメディのようなものを想像していたのだが、実際には確かに滑稽でありコメディなのだけど、もっと大きくて切実な話だった。
これは、短期間で社会主義から資本主義へと急激に変化する時代の波に流される人々が、その中で失ったものを求めようとする物語だ。そして、映画の中に描かれる数ヶ月の中で、それ以前の社会主義社会とその価値観と、そこに訪れた激動を再構築して見せようとする試みでもある。
観ていて、監督の志の大きさに感心し、感動した。傑作です。


映画のハイライトは、かつて宇宙飛行士として国の英雄だったが現在はタクシードライバーをしている男が、ホーネッカーの後任として書記長になったという(架空の)ニュースの中で演説をするシーン。彼が提唱する西側との融合はとても理想的で、一瞬、とても崇高なものを聞いているのだ、こんな社会ならあってもいいんじゃないか、という気にさせられる。そのニュースを眺める家族の顔もとても幸せそうだ。
しかし実際にはニュースのようなことはおこらなかった(ホーネッカーが退陣した後、東ドイツは雪崩のように民主化へ、そして崩壊へと動いていった)し、そのような社会は今までもこれからも存在しない。そう思ったとき、その空虚さにハッとした。そして、それまで映画の中で描かれてきた仮想の社会主義社会というものがまるで持ち上げた盆を返すように一瞬にしてひっくり返されたような気がした。
これは旧東ドイツに対するレクイエムのような映画だと思う。国内でヒットしたらしいが、旧東ドイツの人々はどんな気持でこの映画を観たんだろう。物語の舞台になった年から13年。単に揶揄するでもなく貶すでもなく、冷静にこういう物語を作るにはそれだけの期間が必要だったということなんだろうか。


音楽がいいなと思っていたら、ヤン・ティルセンだった。アメリに続いていい仕事してますね。サントラが欲しくなった。っていうか、ヤン・ティルセンのライブ盤を買おう買おうと思いつつずっとそのままだったわ。。。