「ハリウッドとペンタゴン」

BSプライムタイムで放送された2003年フランス製作のドキュメンタリー。
ハリウッドで作られる戦争映画は、脚本に軍のチェックを入れさせる替わりに軍から安価で武器や機材を借りて作られている。軍隊として変なところを正してリアリティを出すためにはいいが、軍が気にくわない描写があれば脚本を書き換えさせられるし、シーンをカットさせられる(それができないなら、軍は協力をしないだけだ)。要求を素直に聞き入れてくれる特定のプロデューサーには軍は特に協力を惜しまないという。ジェリー・ブラッカイマーなんかがそうだ。
そもそも、それまでベトナム戦争などを舞台に米軍を批判する映画が多かったのが、彼の作った「トップガン」のおかげで空軍志望の若者が増えたのだという。この映画の成功で軍がよりハリウッドに協力するようになったのだそうだ。ペンタゴンで番組のインタビューを受けていた人の肩書きは「娯楽産業支援室長」である。笑っちゃうよね。


リドリー・スコットの「ブラックホーク・ダウン」(ブラッカイマー製作)も、味方の部隊が誤射してくるのを止めようとするシーンを既に撮影済みだったものが軍の要請によりカットされたらしい(TVではそのシーンが映された)。でも、あれ、そういうシーンってなかったっけ。記憶があいまいだ。
私はブラックホーク・ダウンはすごい映画だと思っている。が、映画館で見終えたとき、これは日本人の自分だから醒めた目で見て判断できるけど、アメリカの若者の中にはこれを観て単純に「米軍ってかっこいい」と思う人が多いんだろうなぁと思ったら鬱々としてしまったことを覚えている。この映画は特にアメリカ万歳に偏った映画ではない、とは思う。少なくともギリギリのところで譲歩して作り上げたんだろうと納得できる出来になっていると思うが、修正が軍によって直接入れられていたということは、(もちろんそういう関係は当時からいろいろ言われていたことなのでわかっていたことではあるが)ちょっとショックだった。


エンターテインメントなんだから観客は楽しめればいいのだ、という考えもある程度はありだと思うし、観客がそこまで責任をもつ必要はないと思う。自分もきっとその映画が面白そうなら見るし、映画として出来がよければ思想性云々ぬきにして高い評価をするかもしれない。だけど、そうやって巧妙にプロパガンダにはまっていたとしたら・・・?日本にいるから自分はこんなふうに思えるが、アメリカにいたら事態は全然違っているのかもしれない。
アメリカでは、ブラッカイマー製作で、アフガニスタンでの戦争をドキュメンタリー・タッチに撮ったドラマが放送されているのだという。人物には本物の軍隊を使いリアリティを追求しているが、人が死ぬ場面はでてこない。ひたすら見せたいものだけを見せるプロパガンダの最たるものだが、そこに違和感を抱かない視聴者がいるであろうことにまた鬱々としてしまう。そうやって兵士の再生産がされるわけだ。


アメリカで戦争映画が多いことの理由はうすうすわかってはいたが、改めて示されるとこういろいろと考えさせられてしまう。
ハリウッドでは、同時多発テロ以来、軍への協力に対する意識が変わってきているのだという。それはアメリカのためなんて言えば聞こえはいいが、結局のところ、新たな敵を見つけた米軍にくっついてネタを得るチャンスにここぞとばかりに食いついたというのが正しいんじゃないだろうか。ハリウッドとペンタゴンの共犯関係。今後は中東を舞台にテロと闘うハリウッド映画が増えるかもしれないな。


番組ではジェシカ・リンチ事件を描いたTV映画の撮影現場が映されていた。そこでは米軍の兵士が軍仕様の機材を貸し出し、銃の撃ち方を指導していた。しかし、あのねつ造報道のあった事件をどうドラマにしたというのだろう。結局それがわからなかったのが残念。
IMDbで調べてみたら、「Saving Jessica Lynch」(2003)というのがそのTV映画らしい。投票によるレイティングは平均4.5。ちょっとホッとしたけど、コメントをさわりだけ読んでいったら、プロパガンダだとかたいくつだとかいう意見がある一方でベタ誉めしている人もいて、いったいどんなドラマだったのかちょっと気になってしまった。